相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
先生、困りました。日本の経営管理ビザの資本金の基準が3,000万円になったそうですね。僕はフリーランスで稼いだお金は、すべて機材への再投資に使ってきたので、現金で3,000万円を用意するのは厳しいです。 でも、僕の手元には撮影機材があります。 REDの8Kカメラ本体、ARRIの照明機材、そして希少なヴィンテージレンズのセット。これらを合わせれば、市場価格で3,000万円は軽く超えます。これを現物出資して会社を作れませんか?
回答:行政書士
なるほど、映像業界の方ならではのご相談ですね。結論から言うと、そのプランは現実的で、認められる可能性がありますね。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
本当ですか! 良かった。自分で調べたのですが、IT業界の人みたいに「パソコンは価値が下がるからダメ」と言われるかと思っていました。
回答:行政書士
もちろん、デジタルカメラの本体(ボディ)はIT機器同様に価値が下がりやすいです。しかし、クリスさんがお持ちの「レンズ」や「照明・特機」は違います。特に高品質なシネマレンズやヴィンテージレンズは、中古市場でも値崩れしにくく、ものによっては購入時より価値が上がることもあります。 これらは「事業継続に不可欠かつ、資産価値が客観的に証明できるもの」として、現物出資に適しています。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
それは朗報です! じゃあ、スーツケースに入れて日本に持って行きますね。
回答:行政書士
ストップ! それが最大の落とし穴です。 3,000万円相当の機材を、旅行者のようにハンドキャリーで持ち込んで「これが資本金です」と言うことはできません。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
え? 自分の持ち物なのに?
回答:行政書士
会社設立の現物出資として認めるためには、その機材が「正規の手続きで輸入されたこと」を証明する必要があります。 空港で「業務用品の輸入」として申告し、必要であれば関税や輸入消費税を支払った「輸入許可通知書」などの書類がないと、資金(資産)の形成過程が証明できず、ビザの審査で「密輸品ではないか?」「本当に本人のものか?」と疑われてしまいます。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
わあ…。3,000万円の機材だと、輸入消費税(10%)だけでも300万円払うことになる可能性があるんですか?
回答:行政書士
その通りです。「現金がないから現物出資」を選んだのに、通関で数百万円の現金が必要になる。これが海外からの現物出資の厳しい現実です。ただ考えて見てください。業務で必要な機材を売却して資本金を作っても意味ないですよね?税金の支払いは必要な経費として考えてください。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
税金は痛いですが、ビザのためなら払います。 では、購入時の領収書(インボイス)を全部集めれば、3,000万円と認めてもらえますか?
回答:行政書士
残念ながら、購入額=評価額ではありません。 カメラボディは減価償却が早いですし、レンズも状態によります。日本で会社を設立する時点で、「現在の中古市場価格(時価)」で評価し直す必要があります。 具体的には、専門の中古カメラ買取業者などで査定を受け、その査定額をベースに弁護士等の証明書(会社法33条の調査省略手続き)を作成します。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
もし査定額が下がっていて、合計2,500万円にしかならなかったら?
回答:行政書士
不足分の500万円は、現金で補填する必要があります。 つまり「機材2,500万円 + 現金500万円 = 資本金3,000万円」というハイブリッド構成です。これならクリアできます。
回答:行政書士
もう一つ、クリエイターの方がよく引っかかるポイントがあります。 その高価な機材を置いて、編集作業をする場所(オフィス)はどうする予定ですか?
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
最初はコストを抑えるために、SOHO可のマンションを借りて、そこで寝泊まりしながら作業しようかと…。
回答:行政書士
3,000万円規模の会社で、その形態は危険です。 高額な機材を現物出資するということは、会社には「それを保管・運用する物理的なキャパシティ」が求められます。 入管の審査官はこう考えます。「3,000万円もの高価な機材があるのに、セキュリティの甘いマンションの一室? 保険はどうなってるの? 本当に事業用?」と。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
確かに不自然ですね…。
回答:行政書士
居住スペースとは明確に分かれた「スタジオ」や「オフィス」を契約し、機材庫(機材ロッカー)の写真などを提出して、「大切な資産を適切に管理しています」とアピールする必要があります。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
機材があれば簡単だと思っていましたが、輸入税にオフィスの契約…。結局、ある程度の現金(初期費用)は必要なんですね。
回答:行政書士
そうなんです。「現金ゼロ」での起業は不可能です。しかし、3,000万円全額を現金で用意するよりは、はるかに現実的です。クリスさんの場合のロードマップはこうです。
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機材リストの作成と仮査定
何を持ち込むかリスト化し、現在の中古価格をネット等で調べて試算する。
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輸入コストの計算
輸入消費税(約10%)を支払う現金を準備する。
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不足分の現金を調達
査定額が3,000万円に届かない分は、現金を用意する。
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適切なオフィスの確保
機材を安全に保管できる物件を契約する。
相談者:クリスさん(映像作家・ディレクター)
わかりました。愛着のあるレンズたちを資本金にして、日本で最高の映像を撮るための第一歩だと思って準備します。
まとめ:クリエイターが知っておくべきこと
映像・音楽・デザイン業界のプロにとって、機材は最大の資産です。しかし、国境を越える現物出資には税関の壁があります。
【今回のポイント】
カメラ・レンズ・照明は有力な資産:特にレンズ等の「寿命の長い機材」は評価されやすい。
ハンドキャリーはNG:正規の輸入手続き(納税)を経ていない機材は、資本金として認められないリスク大。
輸入消費税のキャッシュが必要:現物出資する機材額の約10%程度の現金が、通関時に必要になることを忘れずに。
【行政書士からの一言】
「自分の機材を使って日本で起業したい」というクリエイターの方。機材のリスト(メーカー、型番、購入時期)をいただければ、それが現物出資として現実的か、簡易診断からサポートいたします。税理士と連携し、輸入から会社設立までを伴走します。


