はじめに:更新申請で決算書が問われる理由
経営・管理ビザの更新申請において、多くの方が最初に戸惑うのが「決算書の提出」です。新規取得のときは事業計画書や資本金の証明が中心でしたが、更新審査では「実際に事業を営んでいるか」「安定した経営が続いているか」を出入国在留管理庁が確認するため、決算書が重要な書類の一つになります。
決算書は、会社の1年間の経営成績と財政状態を示す書類です。入管の審査官はこの決算書を通じて、申請者が本当に経営者として活動しているかどうかを読み解こうとします。
本記事では、入管が特に注目しやすい「売上高」「給料(役員報酬)」「家賃」の三つの数字を中心に、更新審査のポイントを実務的な視点から解説します。
入管はなぜ決算書を重視するのか
経営・管理ビザの根拠となる在留資格は、出入国管理及び難民認定法(入管法)別表第一の二の表に定められています。同表に定められた「経営・管理」の在留資格は、「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」に与えられるものです。
つまり、ビザの更新が認められるためには、申請時点においても引き続き「事業の経営」または「事業の管理」を実態として行っていることを説明できる状態である必要があります。入管はその実態を確認するために、申請区分・カテゴリーに応じて、直近年度の決算文書などの提出を求めています。
単に会社が存在しているだけでは不十分です。事業が動いていること、その規模と内容が「経営者として在留することの正当性」を裏付けるものであるかどうか、これが審査上の重要な視点になります。出入国在留管理庁が公表している資料でも、事業活動の実態、事業所の確保、事業の継続性などが確認対象として示されています。
「売上高」で入管は何を見るのか
損益計算書の最初の行に記載される売上高は、事業の「活動量」を示す最も直接的な指標です。入管の審査官はこの数字から、以下のような点を読み取ります。
事業がそもそも動いているか
売上高がゼロまたは極めて少額の場合、「事業の実態がない」と判断されるリスクがあります。特に、設立から2年以上経過している会社で売上がほとんど計上されていない場合、審査は厳しくなりやすいと考えられます。
前年比較・事業計画との整合性
前回申請時に提出した事業計画書に記載した売上見込みと、実際の決算数値がかけ離れている場合、説明が求められることがあります。大きく下回っている場合は、理由書などで事業上の事情を丁寧に説明する必要があります。
業種・規模の妥当性
「飲食業で月商5万円」「IT業で年間売上30万円」といったケースでは、経営者として活動しているとは言いにくい状況と判断される可能性があります。ただし、業種によってスタートアップ期間の売上規模は異なりますので、申請時期や事業フェーズに合わせた説明が重要です。
実務上のポイント
売上が少ない場合でも、取引の実態(見積書・注文書・請求書・入金履歴)を補完資料として準備することで、審査官に事業の継続性を示しやすくなります。決算書の数字だけがすべてではありませんが、数字が語るメッセージを意識して経営記録を整理することが重要です。
「給料(役員報酬)」が審査に与える影響
経営・管理ビザは「経営者としての在留資格」ですが、審査において役員報酬(給料)の額は重要な意味を持ちます。
最低水準の意識
入管の審査では、役員報酬が日本での生活を維持できる金額であるかどうかも確認されます。法令上の一律基準ではありませんが、一般的な目安として、月額約20万円以上が実務上意識されることが多く、これを大きく下回る場合は「実態を伴う経営活動の結果として適正な報酬を得ているか」という観点から説明を求められる場合があります。
役員報酬ゼロのリスク
会社の業績が芳しくないことを理由に役員報酬を設定していない、または極めて少額にとどめているケースがあります。このような場合、審査官は「日本での生計を維持する手段があるのか」あるいは「名目だけの経営者ではないか」と疑義を持つことがあります。事業の初期フェーズで利益が出ていない場合は、資本金からの生活費補填など、日本での在留を維持できる具体的な根拠を示す必要があります。
源泉徴収票との整合性
決算書に記載された役員報酬の合計額と、実際の源泉徴収票や給与明細の金額が一致していることは大前提です。税務申告と在留申請で数字がずれていると、それだけで審査官の疑念を招きます。複数の書類を横断的にチェックされることを前提に、数字の一貫性を確認してください。
「家賃」は事業実態の証明である
貸借対照表や損益計算書に計上されている家賃(地代家賃)は、単なるコスト項目ではなく「事業所の実在証明」として機能します。
事務所要件との連動
2025年10月16日に施行された在留資格「経営・管理」に係る基準改正により、経営・管理ビザの許可基準において、事業所の確保がより厳格に確認されるようになりました。自宅を事業所と兼ねることは原則として認められない取扱いとされており、事業の規模等に応じた事業スペースの確保が重要です。
決算書に家賃が計上されていること、そしてその家賃が実際に賃貸借契約書と一致していることは、事業実態を説明するうえで重要です。「決算書上は家賃が0円だが、事業所はある」という状況は、審査上の矛盾を生じさせる可能性があります。
家賃の適正水準
事務所の立地や面積に対して、相場と著しくかけ離れた家賃(例:都内の賃貸オフィスが月額1万円以下)が計上されている場合、審査官から追加確認が入ることがあります。特に、オーナーが外国人申請者の関係者である場合は、取引の実態についての説明が求められる場合があります。
賃貸借契約書・振込履歴との一致
決算書に計上された家賃額が、賃貸借契約書の月額と一致し、かつ銀行の振込履歴でも確認できること。この「三点一致」が審査上の安心材料になります。支払方法が現金の場合は、領収書の保管を徹底してください。
決算書を「読まれる書類」として準備する
ここまで売上高・給料・家賃という三つの数字に注目してきましたが、実際の審査では決算書全体が一つの物語として読まれます。整合性のある説明ができる状態に事前に整えておくことが重要です。
赤字決算でも更新は可能か
結論からいえば、赤字決算であっても更新が認められるケースはあります。ただし、「なぜ赤字なのか」「今後どのように改善していくのか」を説明する理由書や事業展望の資料が非常に重要になります。単に決算書を提出するだけでなく、状況を補足する書類を準備することが更新成功の鍵です。
複数期の比較で傾向を見せる
1期分だけでなく、複数期の決算書を比較することで「事業が着実に成長している」「一時的な落ち込みがあるが回復傾向にある」といった経営の流れを見せることができます。特に審査が厳しくなりやすい3回目以降の更新では、こうした継続性の説明が有効です。
税理士・会計士との連携
決算書の内容は税理士や会計士が作成することが多いですが、在留申請の観点から「どのように見えるか」を事前に確認しておくことが大切です。行政書士と税理士が連携して申請書類を整えることで、より一貫性のある申請が可能になります。
まとめ:決算書を制する者が更新を制する
経営・管理ビザの更新審査において、決算書は「経営の実態」を示す重要な書類の一つです。今回解説した「売上高」「給料(役員報酬)」「家賃」の三点は、入管の審査官が特に確認しやすいポイントです。
これらの数字が実態と一致しており、かつ「経営者として日本に在留することの正当性」を客観的に示している状態であることが、スムーズな更新の前提条件です。
ただし、決算書一つを見るだけでは判断できない複雑なケースも多くあります。「売上は少ないが案件は動いている」「役員報酬は低いが配当で生活している」「赤字だが事業の見通しは良い」といった個別の状況に応じた説明と書類準備が必要です。
経営・管理ビザの更新申請についてお困りの方、決算書の内容が審査にどう影響するか不安な方は、ぜひ行政書士事務所シクロにご相談ください。個別の状況に合わせたアドバイスを提供いたします。
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