はじめに
「数年前に経営管理ビザを取得して日本に来ました。最近の入管法改正で要件が厳しくなったと聞いたのですが、私の次の更新では新しい要件が適用されるのでしょうか?」最近寄せられる相談の中で、特に増えているのがこのテーマです。
在留資格は数年に一度の周期で更新が必要なため、初回取得から時間が経つほど、その間に行われた制度改正の影響を受ける可能性があります。
今回は、法改正後の更新申請における新要件の適用ルールを、経過措置の考え方も含めてわかりやすく整理します。
在留資格更新の基本ルール
在留資格の更新は、出入国管理及び難民認定法に基づく審査を経て許可されます。更新時に審査される主な項目は、初回取得時と同様に、活動実態、収入・経営状況、納税・社会保険の履行状況、法令遵守などです。
ポイントは、更新申請時点で有効な法令、省令、審査基準、ガイドライン等を前提に審査されるという点です。初回取得時に存在しなかった新しい確認事項が、更新時に問題となるケースもあります。
ただし、「法改正があったから、改正前から在留している人にも直ちにすべて新要件が適用される」とは限りません。改正の内容によっては、既存の在留者を急激な不利益から守るための経過措置が設けられることがあります。
経過措置(既存在留者の保護)はあるか
法改正の際は、既存の在留者を急激な変化から守るために「経過措置」が設けられることがあります。経過措置とは、改正後すぐに新基準へ完全移行するのではなく、一定期間、改正前から在留している方について別の取扱いを認める制度上の配慮です。
たとえば、2025年10月16日に施行された在留資格「経営・管理」の基準改正では、改正前から「経営・管理」で在留している方について、施行日から3年を経過する日(令和10年10月16日)までの間、改正後の基準に適合していない場合でも、経営状況や改正後基準に適合する見込み等を踏まえて許否判断を行う取扱いが示されています。
つまり、「改正後は直ちに全員が新基準で不許可になる」という単純な話ではありません。一方で、「改正前に取得していれば、いつまでも旧基準だけで更新できる」という意味でもありません。
経過措置の期間や対象は、法改正ごとに異なります。「法改正されたから即座に全員に新要件適用」とも、「既存の在留者ならずっと旧基準で安心」とも限らないため、一次情報を確認することが大切です。最新の運用は出入国在留管理庁の公表資料で確認しましょう。
経営管理ビザの2025年改正での実例
わかりやすい例として、2025年10月16日に施行された在留資格「経営・管理」の基準改正を見てみます。改正の主なポイントは次のとおりです。
1つ目は、資本金等の基準の引き上げです。従来の500万円以上という基準から、3,000万円以上の資本金等が必要とされる内容に見直されました。
2つ目は、常勤職員の雇用や事業所の確保に関する確認の厳格化です。事業所については、事業用としての独立性・継続性がより重視されます。自宅兼事務所や短期的なスペース利用については、契約内容、使用実態、事業用としての独立性などを慎重に確認する必要があります。
3つ目は、経営者本人の経歴・学歴、日本語能力、事業計画の妥当性などに関する確認の強化です。形式的に会社を設立しただけではなく、継続的・安定的に事業を運営できる体制があるかが、より具体的に見られるようになっています。
改正の経過措置として、改正前から「経営・管理」で在留している方については、令和10年10月16日までの間、改正後の基準に適合していない場合でも、経営状況や改正後基準に適合する見込み等を踏まえて許否判断が行われます。
ただし、新規取得や別の在留資格から「経営・管理」へ変更する場合には、原則として申請時点で有効な改正後の基準を前提に審査されます。改正前から準備を進めていた場合でも、申請時期によって必要な準備が変わる可能性があります。
詳しい審査シミュレーションは、経営管理ビザ「10/16改正」セルフチェックシートで確認できます。新基準のクリア可否を事前に試算しておくと安心です。
更新時に新要件が適用されるケース
経過措置があるとしても、次のようなケースでは、更新時または変更時に新要件への対応が必要になることがあります。
1つ目は、経過措置が終了したケースです。経過措置は多くの場合、一定期間に限って設けられます。終了後は、改正後基準への適合がより明確に求められる可能性があります。経過措置の期間は、法改正の附則、省令、出入国在留管理庁の公表資料などで示されるため、自分が該当するかを必ず確認しましょう。
2つ目は、在留資格の種類を変えるケースです。たとえば、技術・人文知識・国際業務(技人国)から経営管理ビザに変更する場合は、「現在の在留資格の更新」ではなく、「経営・管理」への在留資格変更申請になります。この場合は、変更申請の時点で有効な「経営・管理」の基準が問題になります。「今の在留資格を持っているから旧基準で大丈夫」とは限りません。
3つ目は、長期的な事業計画変更により、当初の許可時の前提が崩れているケースです。たとえば、旧基準の資本金500万円で経営管理ビザを取得していたとしても、更新時の事業実態が著しく悪化している、必要な許認可を取得していない、納税や社会保険の履行状況に問題がある、といった事情があれば、経過措置の期間中であっても慎重に審査される可能性があります。
経過措置の落とし穴
経過措置があるからといって準備を怠ると、思わぬ不許可リスクに直面することがあります。
1つ目の落とし穴は、経過措置の終了タイミングを把握していないことです。改正のニュースは大きく報道されますが、経過措置の終了時期や具体的な運用は見落とされがちです。終了時期を知らずに更新申請をすると、改正後基準への対応不足が問題になることがあります。
2つ目は、経過措置中の猶予を事業改善に使わないことです。経過措置は、改正後基準への対応を進めるための準備期間と考えるのが安全です。資本金等の増強、常勤職員の雇用、事業所の整備、事業計画の見直し、納税・社会保険の履行状況の整理などを早めに進めることで、次回以降の更新に備えやすくなります。
3つ目は、新基準への切り替えタイミングの読み違いです。経過措置の終了前に更新するか、終了後に改正後基準を満たした状態で申請するかは、事業計画や資金計画によって最適な判断が変わります。タイミングは行政書士などの専門家と相談して決めるのが安全です。
更新申請までに準備しておきたいこと
更新申請に向けて準備しておきたい実務的なポイントを挙げておきます。
1つ目は、最新の改正情報の継続フォローです。年に1〜2回は出入国在留管理庁のサイトを確認し、自分の在留資格に関係する改正や運用変更がないかをチェックする習慣をつけるとよいでしょう。
2つ目は、自社の事業実績の整理です。決算書、納税証明書、社会保険の加入・納付状況、事業所の賃貸借契約書、許認可関係書類などを、いつでも提出できるように整えておきます。
3つ目は、行政書士など専門家との定期的なコミュニケーションです。改正情報や個別の影響について早めに確認できる関係を作っておくと、いざというときに動きが早くなります。
法改正は計画的に乗り切る
在留資格は数年ごとに更新が必要であり、その間に法改正があることも珍しくありません。
「現行制度で取ったから安心」と思い込まず、改正情報をキャッチしながら、自分の更新タイミングに合わせた準備を進めていくことが、長期的な日本滞在の鉄則です。
特に経営管理ビザのように、事業規模、資金、雇用、事業所、事業計画など複数の要素が絡む在留資格では、直前対応だけでは間に合わないことがあります。更新予定日のかなり前から、事業面と在留手続面の両方を点検しておきましょう。
アクションリスト
改正後の更新を控えている方が今日できるアクションをまとめておきます。
・自分の現在の在留資格と取得時期を確認しましょう。
・関係する法改正があったかを調べましょう。そのうえで、経過措置が設定されているか、終了時期はいつかを把握します。
・事業実績、納税状況、社会保険の履行状況、事業所や許認可に関する資料など、更新申請に必要な資料を早めに整えましょう。
・迷ったら行政書士などの専門家に相談しましょう。
この4ステップを意識すれば、法改正後の更新も慌てずに迎えやすくなります。
ケーススタディ:技人国から経営管理への変更
実際の相談事例を一つご紹介します。
技人国ビザを持って日本でデザイナーとして5年間勤務したAさんが、独立して自分のブランドを立ち上げるために経営管理ビザへの変更を検討したケースです。
Aさんが独立を考え始めたのは2025年の改正前でしたが、実際に申請したのが改正後だったため、申請時点の新基準を前提に準備を進める必要がありました。当初想定していた資本金500万円では足りず、資金計画の見直し、出資者との調整、事業所の契約内容の確認など、想定外の準備に時間を要しました。
改正前の情報だけで動き始めると、こうしたギャップに直面します。情報の鮮度と、改正の影響範囲を早めに把握することが、独立や転職を伴う在留資格変更では特に重要になります。
改正情報のキャッチアップ術
法改正の情報は、出入国在留管理庁の公式サイトのほか、行政書士会のニュースレター、各種専門メディア、信頼できる行政書士のブログなどで得られます。
一つの情報源だけに頼らず、複数のソースをクロスチェックする習慣をつけると、改正の見落としを防げます。また、入管法の改正は、雇用、労務、社会保険、税務などの周辺制度と関係することもあります。視野を入管法だけに狭めず、外国人雇用や会社運営に関連する周辺領域も含めて情報を集めることが、長期的なリスク回避につながります。
まとめ
法改正後の更新申請は、経過措置の有無、自分の在留資格の種類、事業実績の維持状況、申請時期などによって、適用される要件や審査上の見られ方が変わります。
「改正前に取ったから旧基準でいける」「改正後だから必ず新基準だ」と単純化せず、個別の状況を専門家と一緒に整理することが大切です。
経営管理ビザを含む各種在留資格の更新について、行政書士事務所シクロでは、改正後の運用や経過措置の影響を含めて総合的にサポートします。「次の更新が不安」という方は、ご相談ください。
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