はじめに
「日本でレストランを開業したい」「経営管理ビザでカフェを運営したい」という外国人の方が、経営管理ビザの取得や事業計画と並行して、必ずクリアしなければならないのが「飲食店営業許可」です。
営業許可を持たずに飲食店を運営すれば、食品衛生法上の無許可営業となり、営業停止等の行政処分や罰則の対象になる可能性があります。外国人経営者の場合は、それだけでなく、経営管理ビザの更新審査でも「適法に事業を運営しているか」という点で重大なマイナスとなり、更新が認められないリスクが高くなります。
本記事では、飲食店営業許可の取得手順、申請書類、設備要件、そして外国人経営者が特につまずきやすいポイントを実務目線で整理します。
飲食店営業許可とは
飲食店営業許可は、食品衛生法に基づいて各都道府県等の保健所が関与し、営業施設が基準を満たしているかを確認したうえで行われる許可です。客に食事や飲み物を提供する事業を行うには、原則として店舗ごとに取得が必要です。法人形態(株式会社・合同会社)でも個人事業でも、許可は「店舗」に紐づいて発行されます。
経営管理ビザを持つ外国人経営者の場合、入管法上の在留資格に応じた活動を行うだけでなく、食品衛生法など事業に関係する法令を遵守して事業を運営することが重要です。出入国管理及び難民認定法では、在留資格「経営・管理」は「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」とされています。
在留期間の更新や在留資格の変更では、申請内容、在留状況、事業の実態、公的義務の履行などが総合的に確認されます。特に、経営管理ビザの申請では、事業を営むために必要な許認可を取得していることを示す資料が求められる場合があります。営業許可を欠いた状態で飲食店を運営すると、食品衛生法上の問題に加え、在留審査でも重大なマイナスとなり、更新が認められないリスクが高くなるため注意が必要です。
取得までの基本フロー
申請から営業開始までは、おおむね次の流れで進みます。
- 物件の選定と賃貸借契約(営業可能用途かを必ず確認)
- 保健所への事前相談(図面持参で行うのが鉄則)
- 内装工事と設備の設置
- 食品衛生責任者の確保(店舗ごとに1名以上)
- 営業許可申請書の提出(施設完成検査の日程調整を含む)
- 施設完成検査(保健所の担当者が現地確認)
- 営業許可証の交付(自治体や混雑状況により日数は異なります)
- 営業開始
事前相談から営業開始まで、最短でも1か月程度、内装工事が必要な場合は2〜3か月を見込んでください。経営管理ビザの認定や会社設立スケジュールと並行する場合、時間に余裕を持って動くことが必須です。
申請に必要な主な書類
保健所により多少の差はありますが、一般的に次の書類が必要です。
- 営業許可申請書(保健所の様式)
- 営業設備の大要・配置図(厨房・客席のレイアウト)
- 食品衛生責任者の資格証明書のコピー
- 法人の場合は登記事項証明書、個人の場合は申請者の身分証明書(外国人は在留カード等)
- 水質検査成績書(井戸水などを使用する場合)
- 申請手数料(自治体・業種により異なりますが、1.6万円〜2万円程度が目安)
施設完成検査では、図面どおりに施工されているか、保健所が現場を確認します。検査までに設備を整えておく必要があるため、内装工事との段取りが重要です。
設備要件のポイント
保健所がチェックする設備要件のうち、外国人経営者がつまずきやすいポイントをまとめます。具体的な基準は自治体や業態によって異なるため、必ず管轄保健所に確認してください。
手洗い設備:厨房内には従業員用の手洗い設備が必要です。客席側・トイレ周りの手洗いについても、自治体の基準に沿って確認されます。手洗い設備の水栓は、洗浄後の手指の再汚染を防止できる構造であることが求められます。具体的には、レバー式、センサー式、足踏み式など、手で直接触れずに水を止められる構造が想定されます。かつて多かった手で回すタイプの蛇口は、施設基準に適合しないと判断されることがあるため、内装工事前に必ず確認してください。固形石鹸ではなく液体石鹸が指定される自治体もあります。
シンク:調理内容や営業形態に応じて、2槽以上のシンクまたは同等の洗浄設備が求められることがあります。食器洗浄機を設置する場合でも、シンク自体が別途必要となるケースがあるため、図面段階で確認しておくことが大切です。
手洗い設備とシンクの兼用不可:従業員用の手洗い設備と、食器・器具を洗うためのシンクは、原則として兼用できません。厨房スペースを節約するために、食器用シンクを手洗い設備として兼ねる設計にすると、保健所の事前相談や施設完成検査で手戻りになる可能性があります。手洗い設備と洗浄設備は、それぞれ独立して設置する前提で図面を作成してください。
冷蔵・冷凍設備:温度計を備え、食品を適切な温度で保管できる設備が必要です。冷蔵10℃以下、冷凍-15℃以下などの管理基準を意識し、営業規模や取扱食品に応じた設備を準備します。家庭用冷蔵庫を使う場合でも、温度管理や容量の面で問題がないかを事前に確認してください。
床・壁・天井:清掃しやすく、衛生的に保てる素材が求められます。厨房では耐水性があり、汚れがたまりにくい構造が望ましいです。木製の床や畳などは、客席では問題にならない場合もありますが、厨房では避けるべきケースが多いです。
換気設備:油煙・蒸気を適切に排出できる換気設備が必要です。業態や建物の構造によっては、グリーストラップ(油脂分離槽)の設置を求められることもあります。
これらは図面段階で保健所と事前相談すれば、手戻りを大きく減らせます。「事前相談はマスト」と覚えてください。
食品衛生責任者の確保
店舗ごとに1名以上、食品衛生責任者を配置する必要があります。資格取得方法は次のいずれかです。
- 都道府県等が実施する食品衛生責任者養成講習会を受講(1日、6時間程度、受講料1万円前後が目安)
- 調理師・栄養士・製菓衛生師などの国家資格を持つ
外国人経営者の場合、養成講習会は基本的に日本語で実施されます。ただし、現在は会場での集合講習だけでなく、オンライン(eラーニング)で食品衛生責任者養成講習を受講できる実施団体もあります。受講できる地域、申込条件、本人確認方法、修了証の交付方法は実施団体によって異なるため、管轄の食品衛生協会や保健所で確認してください。
英語・中国語など外国語対応の講習や補助資料を用意している自治体・実施団体もありますが、対応状況は限定的です。日本語に不安がある場合は、多言語対応やeラーニングの有無を早めに確認するとともに、日本語が堪能で、実際に店舗の衛生管理に関与できるスタッフや家族を責任者として置く方法も検討できます。
注意:食品衛生責任者の名義貸しは認められません。実態として店舗の衛生管理に関与できる人を選ばないと、後で問題になります。
業態別の追加ライセンス
業態によっては、飲食店営業許可に加えて別のライセンスが必要です。
深夜酒類提供飲食店:午前0時から午前6時までの深夜時間帯に、バーや居酒屋など主に酒類を提供する飲食店を営業する場合は、警察署を経由して公安委員会への届出が必要です(風営法)。一方で、ラーメン店、牛丼店、定食店など、営業の常態として通常主食と認められる食事を提供する店舗は、深夜に酒類を提供していても対象外となる場合があります。酒類提供の割合や営業実態によって判断されるため、自己判断せず事前に警察署へ確認してください。
菓子製造業許可:店内で作ったケーキ、焼き菓子、パンなどを、その店舗で顧客に直接テイクアウト販売するだけであれば、飲食店営業許可の範囲で扱える場合があります。ただし、菓子やパンの製造販売を主たる業態とする場合、包装して継続販売する場合、他店への卸売り、ネット通販での配送、イベント販売、無人販売、自動販売機での販売など、店頭での対面販売を超える提供方法を行う場合は、別途「菓子製造業」の許可が必要になることがあります。
そうざい製造業許可:店内で作った弁当や惣菜を、店頭で顧客に直接販売する場合や、注文を受けて配達する場合は、飲食店営業許可の範囲で行える場合があります。ただし、他店への卸売り、スーパー等への納品、インターネット販売、広域配送、店頭以外での継続販売などを行う場合は、営業内容に応じて「そうざい製造業」などの製造業許可が必要になることがあります。
酒類販売業免許:未開栓の酒類をテイクアウト販売する場合に必要です(税務署)。店内で開栓して酒類を提供する場合は飲食店営業の範囲で行いますが、未開栓のボトル販売、持ち帰り販売、通販を行う場合は、税務署の酒類販売業免許が問題になります。
業態を絞らずに「色々やりたい」と相談される方が多いですが、必要な許可が増えるとコストも審査時間も増えます。開業時はメイン業態に絞り、後から拡張する方が現実的です。特に、店頭対面販売なのか、卸売りなのか、ネット販売なのか、自動販売機販売なのかによって必要な許可が変わるため、開業前に販売方法を整理しておきましょう。
外国人経営者が特に気をつけたい論点
外国人経営者の場合、次の点で日本人経営者よりハードルが高いことがあります。
書類の日本語化:海外の資格証や経歴書は、日本語訳の添付が必要になることがあります。翻訳の質が雑だと差し戻されることもあるため、制度用語を正確に訳すことが重要です。
契約書の理解:賃貸借契約書、保健所との書類など、手続書類は基本的に日本語ベースです。翻訳や日本語サポートをセットで準備するのが安全です。
経営管理ビザとの整合性:事業計画書に飲食店業を明記し、実際に申請する営業許可や業態と矛盾しない形で書類を整えます。経営管理ビザの審査と飲食店営業許可の審査は別物ですが、両者で整合性が取れていることは、後の更新審査でも重要になります。
従業員の在留資格:従業員にも外国人を雇用する場合、その在留資格で飲食店業務が許可されているかを必ず確認します。「技術・人文知識・国際業務」では、調理・ホール接客など現場作業を主目的とする業務は原則として認められにくいです。業務内容に応じて、特定技能(外食業)や身分系の在留資格などが必要になる場合があります。
営業許可とビザ更新の関係:経営管理ビザの更新では、会社が形式的に存在しているかだけでなく、事業が適法に、安定して、継続的に行われているかが確認されます。飲食店として必要な営業許可を取得せずに営業していた場合、食品衛生法上の問題にとどまらず、経営者として遵守すべきルールを守っていないと評価されるおそれがあります。特に、事業に必要な許認可の取得状況に問題がある場合は、更新審査で消極的な要素となり、更新が認められないリスクが高くなります。
取得後の継続的な対応
許可を取得しただけでは終わりません。継続的に守るべき義務があります。
営業許可の更新:5〜8年ごとなど、自治体が定める期間で更新が必要です。期限切れに気をつけましょう。
HACCPに沿った衛生管理:2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。衛生管理計画や手順を整備し、日々の記録を残すことが重要です。
変更届の提出:店舗の改装、食品衛生責任者の変更、屋号変更などは、内容に応じて速やかに保健所へ届出が必要です。厨房設備を大きく変更する場合は、事前相談が必要になることもあります。
従業員の健康管理:自治体の指導や施設の衛生管理計画に応じて、従業員の健康確認が必要になることがあります。特に、弁当、惣菜、仕出し、給食など、大量調理や持ち帰りを扱う業態では、食中毒リスクを意識した管理が重要です。
営業形態を広げるときの再確認:開業後に、店内飲食だけでなく、テイクアウト、デリバリー、ネット販売、卸売り、自動販売機販売、深夜営業、酒類販売などを始める場合は、既存の飲食店営業許可だけで足りるかを必ず確認してください。営業形態の拡張は売上機会になりますが、許可・届出の漏れがあると、保健所、警察署、税務署、入管審査の各場面で問題になる可能性があります。
これらを軽視すると、保健所の立入検査で指導が入り、悪質な場合は行政処分につながる可能性があります。経営管理ビザの更新審査でも、「適法かつ安定して事業を運営しているか」が問われる重要なポイントです。
まとめ
飲食店営業許可は、外国人経営者にとって経営管理ビザと並ぶ「もう一つの関門」です。図面の事前相談、設備要件、責任者の確保、関連業態の許可、継続的な遵守——どれも実務的なノウハウが必要な領域です。物件契約の前から保健所と相談しておくことで、後の手戻りを大幅に減らせます。
特に、2021年6月の改正食品衛生法の完全施行後は、営業許可制度の再編、施設基準の見直し、HACCPに沿った衛生管理の制度化などにより、以前の感覚では判断できない場面が増えています。テイクアウトやデリバリーが飲食店営業の範囲でできる場合もありますが、卸売り、ネット販売、自動販売機販売、包装商品の継続販売などに広げる場合は、別許可が必要になることがあります。
行政書士事務所シクロでは、経営管理ビザの取得・更新サポートと併せて、飲食店営業許可の申請相談や関連手続きの調整もお手伝いしています。「物件の候補は決まったけど、保健所に行く前に整理したい」「営業許可とビザ更新を同じタイムラインで進めたい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。


