経営管理ビザの申請において、事業計画書は審査上きわめて重要な書類です。とりわけ飲食店を開業・経営しようとする外国人起業家にとっては、「この店舗で本当に安定した売上が見込めるのか」を数字で示すことが欠かせません。
今回は、飲食店経営の事業計画書に欠かせない売上予測の手法として、客単価と回転率を軸にしたシミュレーション方法を解説します。難しい計算式を使わなくても、基本的な掛け算を組み合わせることで、審査担当者にとっても確認しやすい数字を組み立てることができます。
なぜ飲食店の事業計画書は特殊なのか
飲食店の売上は「見えにくい」と言われます。同じ立地・同じ席数の店舗でも、業態(ラーメン店・居酒屋・カフェ)や客層、営業時間帯によって売上は大きく異なります。ITサービスや小売業と異なり、飲食店の収益は「1日の来客数」と「1人あたりの消費金額」という、きわめてシンプルな変数に大きく左右されます。
だからこそ、出入国在留管理庁に提出する事業計画書では、「どういう根拠でこの売上を見込むのか」を丁寧に説明する必要があります。経営管理ビザの審査では、事業の合理性・継続性が重視されるため、その判断材料となる事業計画書の記述が重要です。行政書士事務所シクロでは、こうした業種別の事業計画書作成支援も行っています。
売上予測の基本式
飲食店の月次売上は、以下の式で算出します。
月次売上 = 客単価 × 1日の来客数 × 営業日数
そして「1日の来客数」は、次のように展開できます。
1日の来客数 = 席数 × 回転数 × 稼働率
これらを組み合わせると、以下の式になります。
月次売上 = 客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数
各変数の設定方法を、以下で順に解説します。
客単価の設定方法
客単価とは、1名の顧客が1回の来店で支払う平均金額です。業態によって目安は大きく異なります。たとえば、ランチ主体のカフェであれば800〜1,500円、居酒屋であれば2,500〜4,000円、高単価のコース料理店であれば10,000円以上になることもあります。
事業計画書で客単価を設定する際には、以下の根拠を示すことが重要です。
まず、競合調査です。同じ商圏内にある類似業態の飲食店の価格帯を調査し、「この価格なら集客できる」という根拠を示します。
次に、メニュー構成との整合性です。事業計画書に添付するメニュー案(または価格帯)と、客単価が一致しているかを確認します。「メニューの最安値が800円なのに客単価を2,000円と設定している」という矛盾があると、審査で疑念を持たれる可能性があります。
さらに、アルコール・追加注文の想定も忘れてはなりません。居酒屋や夜業態の飲食店では、ドリンクやサイドメニューの追加注文が客単価を押し上げます。「ドリンク平均2杯+フード2品」といった具体的な想定を記述すると、計画の現実感が増します。
回転率とは何か
回転率(回転数)とは、1日の営業時間内に同じ席を何回転させられるかという数値です。たとえば、昼12時〜14時の2時間ランチ営業で、平均滞在時間が40分であれば、理論上の回転数は「120分 ÷ 40分 = 3回転」です。
回転率は業態によって大きく異なります。ラーメン店・牛丼チェーンのようなファストフード型は1席あたり5〜8回転を見込める場合がありますが、ゆっくり食事を楽しむダイニング型では、昼夜合わせて1〜2回転程度が現実的なケースもあります。
回転率を設定する際の注意点として、ピーク時と閑散時を区別することが挙げられます。「昼のピーク(12〜13時)は3回転、閑散時間帯(13〜14時)は0.5回転」というように、時間帯別に分解して説明すると説得力が高まります。
稼働率(席の埋まり具合)を忘れずに
席数×回転数で計算される数字は「満席状態が続いた場合の理論値」です。現実には、常に満席になるわけではありません。この「実際に席が埋まる割合」が稼働率(または客席稼働率)です。
一般的な稼働率の目安として、開業直後(1〜3か月目)は30〜40%、軌道に乗った後(6〜12か月目)は50〜60%、安定期(1年以降)は60〜70%程度を想定するケースがあります。
事業計画書では、この稼働率を段階的に示すことが重要です。「開業1か月目は30%、半年後には55%、1年後には65%」という成長シナリオを描くと、審査担当者に「この起業家は現実を理解している」という印象を与えやすくなります。過度に楽観的な稼働率(初月から80%など)を設定すると、計画全体の信頼性が下がる可能性があります。
シミュレーション例:小規模カフェの場合
ここで、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。想定条件は次の通りです。
- 席数:20席
- 客単価:1,200円
- 回転数:ランチ・カフェタイムで1日3回転
- 稼働率:50%
- 営業日数:月25営業日
この場合の月次売上は、以下のように計算されます。
月次売上 = 1,200円 × 20席 × 3回転 × 50% × 25日 = 900,000円
次に、稼働率が軌道に乗った場合(65%)を試算します。
月次売上 = 1,200円 × 20席 × 3回転 × 65% × 25日 = 1,170,000円
このように、稼働率の変化が売上に与える影響を「開業時シナリオ」「安定期シナリオ」として並列で示すことで、計画の信頼性が高まります。
費用構造との整合性を示す
売上予測だけでは事業計画書は完成しません。審査では「売上から費用を引いた残りで、本当に事業が成り立つか」が問われます。飲食店の主要コストは以下の通りです。
- 食材費(FL比率のFood):売上の25〜35%が目安です。食材費率が高すぎると利益が出にくくなります。
- 人件費(FL比率のLabor):売上の25〜35%が目安です。アルバイト主体か正社員主体かで変わります。
- 賃料:売上の8〜10%以内が理想とされています。売上900,000円であれば、家賃は72,000〜90,000円以内が健全な範囲といえます。
- その他経費:水道光熱費、消耗品費、広告費などです。売上の10〜15%が一般的な目安です。
FL比率(食材費+人件費)は、売上の55〜65%以内を目標に設定するのが飲食業では一般的です。これを超えると、賃料や光熱費を支払ったあとに利益が残りにくくなります。
経営管理ビザ審査との関係
出入国管理及び難民認定法(入管法)および関連する上陸基準省令等に基づく経営管理ビザの審査では、事業計画の合理性・具体性・継続性が重要な判断材料になります。出入国在留管理庁の審査では、事業計画書が「実現可能かどうか」を確認されます。
飲食店の場合、特に以下の点が審査で重視されます。
まず、立地と売上予測の整合性です。ビジネス街の立地でランチ需要を見込む計画と、住宅街の立地で夜営業を見込む計画では、それぞれ客単価や回転率の設定が変わるはずです。立地分析と売上予測が噛み合っているかが問われます。
次に、開業資金と運転資金です。2025年10月16日施行後の在留資格「経営・管理」の基準では、原則として、申請に係る事業の用に供される財産の総額(法人の場合は資本金額等、個人事業主の場合は事業を営むために必要なものとして投下されている総額)が3,000万円以上であること、1人以上の常勤職員を雇用することなどが確認されます。また、申請者の経営・管理経験または関連分野の学位、日本語能力、事業計画書に対する経営に関する専門家の確認なども重要です。
飲食店では、内装工事費、厨房設備費、保証金、初期在庫費用を積み上げたうえで、開業後の赤字期間(一般的には3〜6か月程度を想定することがあります)を乗り越えるための運転資金が確保されているかが問われます。
また、申請者の業界経験・知識も重要です。飲食経験のない申請者が飲食店経営の事業計画書を提出する場合、料理人の雇用計画や業務委託契約など、実務的な体制を示す必要があります。
事業計画書の作成で陥りがちなミス
経営管理ビザの申請において、事業計画書の不備で不許可や審査長期化が生じるケースがあります。代表的なミスを確認しておきましょう。
根拠なき楽観的売上設定:「このエリアにはこういう飲食店がないから必ずヒットする」という定性的な主張だけでは不十分です。客単価・回転率・稼働率の数値を根拠として示す必要があります。
費用の過少見積もり:事業計画書上は黒字でも、実際にかかるコスト(食材廃棄ロス、求人費用、メンテナンス費用など)を見落としていると、審査で「この計画では事業が維持できない」と判断される可能性があります。
季節変動の無視:飲食店はシーズンによって売上が大きく変動します。繁忙期・閑散期を考慮した月次の売上計画を提示することで、計画の現実感が増します。
入管法・関連基準との整合性確認不足:審査基準は法改正や関連省令の改正によって変化します。最新の許可基準や必要書類を確認したうえで事業計画書を作成することが不可欠です。
まとめ
飲食店の事業計画書における売上予測は、客単価・回転率・稼働率という3つの変数を掛け合わせることで、説得力のある数字を組み立てることができます。大切なのは「根拠のある数字」であることです。立地調査・競合分析・業態の特性を踏まえた現実的なシミュレーションが、審査担当者の信頼を得る鍵となります。
しかし、事業計画書の作成は、数字を並べるだけでは不十分です。入管法・上陸基準省令等に関する要件を踏まえた構成になっているか、添付書類との整合性はあるか、審査の視点から見て説得力があるかを総合的に確認する必要があります。
行政書士事務所シクロでは、経営管理ビザの申請に特化した事業計画書の作成支援を行っています。飲食店・小売業・IT業など業種別の審査を見据えた計画書作成をサポートします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
関連リンク
行政書士事務所シクロの関連記事
公的機関の参考ページ


