会社設立登記が完了し、いよいよ経営管理ビザの申請へ。
最もハードルの高い「在留資格」の審査に向け、事業計画のブラッシュアップに余念がない外国人経営者様にとって、意外な「伏兵」となるのが法人口座の開設です。
実務の現場では、入管法の要件をクリアしているにもかかわらず、銀行の総合的判断で口座開設を断られ、事業スタートの足並みが乱れるケースが散見されます。
口座開設は、決してビザ申請以上に難しい業務ではありません。しかし、「入管が見ているポイント」と「銀行が見ているポイント」のズレを理解していないと、思わぬところで躓いてしまいます。
今回は、外国人起業家のサポートを行う行政書士の視点から、スムーズな事業開始のために知っておくべき「銀行審査の独自の視点」と「具体的な準備」について解説します。

なぜ、「会社」があるのに「口座」が作れないのか?
「登記が完了したので、口座を作れて当たり前だ」
母国の感覚でそう考える経営者様は多いですが、現在の日本の金融機関は、世界的なマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の最前線に立たされています。
銀行側は、「外国人だから」差別しているわけではありません。彼らが恐れているのは、作った口座が「犯罪収益の移転」や「不正送金」に使われるリスクです。
特に新設法人の場合、事業活動の実績がゼロであるため、銀行は「性悪説」に近い慎重さで審査を行わざるを得ません。ここで重要になるのが、「事業の実在性」と「代表者の適格性」の証明です。
銀行審査で「NG」を出されやすい4つの死角
入管のビザ審査では「事業の安定性・継続性」が重視されますが、銀行審査では少し異なる角度からチェックが入ります。多くの外国人経営者がハマるポイントは以下の4点です。
1. 「オフィス」の要件に対する認識の甘さ
経営管理ビザにおいても「独立した事業所」は必須要件ですが、銀行はさらに「郵便物が確実に届き、そこで実務が行われているか」を物理的な側面から厳しくチェックします。
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バーチャルオフィス: 住所貸しのみの場合、大手銀行での開設はほぼ不可能です。
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シェアオフィス: 執務スペースが個室で区切られていない場合、「実体なし」と判断されるリスクが高まります。
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看板の有無: 銀行員が現地調査(実査)に来ることは減りましたが、Googleストリートビューなどで「看板(表札)」が確認できない場合、ペーパーカンパニーを疑われます。
「ビザ申請のためにこれから内装工事をする」という段階でも、銀行には「現時点で実態がない」と判断されかねません。
2. 事業目的の「多角経営」すぎる記載
日本の定款には、将来やるかもしれない事業も含めて多くの目的を記載する慣習がありますが、外国人創業者の場合、これが仇となることがあります。
「貿易業」「飲食業」「Web制作」「コンサルティング」……
あまりに脈絡のない事業目的が羅列されていると、銀行は「主たる事業が何で、具体的にどこの誰から入金があるのか」を特定できません。マネロンのリスクが高いと判断される典型例です。
3. 固定電話とホームページの不在
「連絡は携帯電話(090/080)で十分」「SNSがあるからHPはいらない」
これは現代のビジネスでは通用しますが、銀行の審査テーブルにおいては「信用力の欠如」とみなされる可能性があります。
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固定電話(03や06など): その場所に根付いてビジネスをする覚悟の証拠と見られます。
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自社ウェブサイト: 単なる紹介ページではなく、会社概要、代表者プロフィール、プライバシーポリシーなどが明記された「コーポレートサイト」が存在することは、実在性の強力な証明資料となります。
4. 日本語コミュニケーション能力の不足
面談時、通訳に全てを任せていませんか?
銀行員は、「トラブルが起きた際、代表者本人と日本語で連絡が取れるか」を重視します。流暢である必要はありませんが、自社のビジネスモデルについて、拙くても自分の言葉で説明しようとする姿勢がなければ、「名義貸し」を疑われる可能性もあります。
審査を確実に突破するための実務的対策
では、ビザ申請準備と並行して、どのような対策を打つべきでしょうか。
【戦略1】銀行の「格」を狙いすぎない
最初からメガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)にこだわるのは得策ではありません。審査期間が長く、ハードルも高いため、時間のロスにつながります。以下の順序で検討しましょう。
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ネット銀行(GMOあおぞら、住信SBI、楽天など):
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手続きがWeb完結でスピーディー。手数料も安く、創業期のパートナーとして最適です。まずはここで「入出金の実績」を作ることが最優先です。
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地域金融機関(信用金庫・信用組合):
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「地域密着」を掲げているため、担当者が対面でしっかり話を聞いてくれる傾向があります。日本語でのコミュニケーションに自信があれば、熱意が伝わりやすいルートです。
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ゆうちょ銀行:
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全国に窓口があり、法人口座開設のハードルは比較的フラットです。
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【戦略2】「銀行提出用」の資料セットを用意する
入管に提出する分厚い事業計画書をそのまま銀行に出しても、担当者は読み込んでくれません。銀行員が稟議書を書きやすいように、以下の情報をA4用紙1~2枚にまとめた「銀行用事業概要書」を作成しましょう。
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ビジネスモデル図(商流): どこから仕入れ、誰に売り、いつ入金されるか。
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主要取引先リスト: 具体的な社名(予定含む)。契約書案や発注書があれば最強の武器になります。
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販売ターゲットと単価: 誰にいくらで売るのか。
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資本金の出所証明: 自己資金がどのように形成されたか、入管同様にクリアにしておくこと。
【戦略3】会社実印と身分証の整合性
非常に細かい点ですが、登記した「会社代表印」を持参するのは当然として、代表者の本人確認書類(在留カードやパスポート)の住所表記と、登記簿上の住所表記が一字一句一致しているかも確認されます。ハイフンやビル名の有無など、細部での不備による差し戻しは避けましょう。
行政書士からのアドバイス:順序と準備がすべて
経営管理ビザの取得を目指す場合、多くの方が「会社設立 → ビザ申請 → 許可」という流れをイメージされますが、法人口座開設はこのプロセスの合間、あるいは許可後に必ず通る道です。
「ビザは取れたのに、法人口座がなくて個人口座から資本金が動かせない」
「取引先から法人口座がないと契約できないと言われた」
こうした事態を防ぐためにも、会社設立の段階から「銀行が見ても怪しくない定款作り」や「実体のあるオフィス選び」をしておくことが肝要です。
当事務所では、ビザ申請の代行だけでなく、創業後のスムーズな立ち上げを見据えた法人口座開設のアドバイスや、事業計画書の「銀行向けアレンジ」もサポートしています。
行政書士は単なる書類作成代行屋ではありません。あなたのビジネスを日本社会に適合させ、円滑に進めるための「翻訳者」でもあります。
ビザも口座も、正しい準備さえあれば恐れることはありません。まずは一度、専門家にご相談ください。


