日本で働きたい、あるいはビジネスを始めたいと考えたとき、必ず直面するのが「在留資格(ビザ)」の問題です。
特に「日本で働けるビザ」として、最も一般的な「技術・人文知識・国際業務」(技人国)ビザなどの「就労ビザ」と、「経営・管理」ビザは、目的が全く異なるにもかかわらず、混同されがちです。
そして、2025年10月16日に施行された法改正により、「経営・管理」ビザの取得要件は劇的に厳格化されました。かつて(2025年10月15日まで)の「資本金500万円で会社設立」という知識は、もはや通用しません。
「就職先が見つからないから、自分で会社を作って経営・管理ビザを取ろう」といった安易な選択は、新制度下では不可能になりました。
この記事では、「経営・管理」ビザと、技人国ビザに代表される他の「就労ビザ」が、根本的にどう違うのかを、2025年の新制度のポイントも踏まえて徹底的に比較・解説します。
根本的な違い:「従業員」か「経営者」か
まず、最大の分岐点であり、本質的な違いは「あなたの立場」です。
就労ビザ(例:「技術・人文知識・国際業務」ビザ)
- 立場:従業員(雇われる側)
- 活動内容: 日本の企業や団体との「契約」に基づき、専門的な知識やスキルを活かした業務(エンジニア、マーケター、翻訳、デザイナー、語学教師など)に従事します。
- ビザの土台: 「雇用契約」と「あなた個人のスキル」です。
経営・管理ビザ
- 立場:経営者・管理者(雇う側・経営する側)
- 活動内容: 日本で「事業」を立ち上げ、その経営を行う(社長、代表取締役など)、または事業の管理に従事する(役員、支店長など)活動です。
- ビザの土台: 「あなたが行う事業そのもの」です。
就労ビザは「会社に所属する」ためのビザ、経営・管理ビザは「会社を運営する」ためのビザ、と考えると分かりやすいでしょう。
審査の「壁」はどこにあるか?
この立場の違いが、ビザ申請時に審査されるポイント(=クリアすべき壁)の決定的な違いとなって現れます。
【就労ビザ(技人国など)】の審査ポイント
就労ビザの審査で最も重視されるのは、以下の2点です。
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本人の学歴・職歴と業務内容の「関連性」
これが絶対条件です。例えば、大学で機械工学を専攻した人が、IT企業でエンジニアとして働くのはOKです。
しかし、機械工学を専攻した人が、レストランで調理師(「技能」ビザに該当)やホールスタッフ(「特定技能」などに該当)として働くために「技人国」ビザを取ることは原則できません。
「あなたが持つ専門スキル」と「会社があなたにやらせたい仕事」が、在留資格の区分に合っているかが厳しく見られます。
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雇用する「会社」の安定性・継続性
あなたを雇う会社が、きちんと給料を払い続けられるか、適法に運営されているかが審査されます。
申請者(あなた)自身に、資本金や経営経験は一切求められません。必要なのは「スキル」と「雇ってくれる会社」です。
【経営・管理】ビザの審査ポイント(2025年10月16日~)
一方、経営・管理ビザは「あなた自身が事業主」であるため、審査のポイントは「あなたが始める事業が、本物であるか」に尽きます。
2025年10月の厳格化により、この「本物であること」の証明が極めて困難になりました。
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事業規模:「資本金3,000万円」+「常勤職員1名」が両方必須
- 旧制度(~2025/10/15): 「資本金500万円」または「常勤職員2名」のどちらかでOKでした。
- 新制度(2025/10/16~): 「資本金(または出資総額)3,000万円以上」 かつ 「(日本人・永住者などの)常勤職員1名以上の雇用」が両方必須となりました。
- この時点で、一般的な就労ビザとは比較にならない資金力と事業計画が求められます。
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経営者の能力:「3年以上の経営経験」または「修士以上の学位」が必須
- 旧制度では、経営経験は不問でした。
- 新制度では、「3年以上の経営・管理経験」または「経営・管理に関する修士以上の学位」が必須要件として追加されました。
- 「誰でも社長になれる」わけではなくなりました。
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事業所の厳格化:「独立した事務所」が必須
- 旧制度でも原則でしたが、新制度ではさらに厳格化されました。
- 自宅兼事務所、バーチャルオフィス、コワーキングスペースの共用部は原則認められません。事業専用の物理的な事務所が必須です。
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日本語能力:「N2相当」が必須
- 申請者本人、または雇用する常勤職員のどちらかが「日本語能力試験N2相当」の能力を持つことが求められます。
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事業計画書の信頼性:「専門家の確認」が必須
- 事業計画書は、中小企業診断士や税理士などの専門家による「事業が適正かつ継続的に行われる見込みがある」との確認を受けることが義務化されました。
就労ビザが「個人のスキル」を見るのに対し、経営・管理ビザは「事業の規模、経営者の能力、事業の実現可能性」を総合的に審査されます。そのハードルは、就労ビザの比ではありません。
ビザ取得後の「リスク」の違い
ビザを取得した後も、その「土台」の違いがリスクの違いとなって現れます。
就労ビザのリスク:「会社への依存」
- 就労ビザは「A社で働くこと」を前提に許可されています。
- もしA社を退職・解雇されると、ビザの土台(雇用契約)が失われます。
- 3ヶ月以内に次の就職先(同じビザの範囲内の仕事)を見つけ、「所属機関に関する届出」や、場合によっては「在留資格変更許可申請」をしなければ、ビザの更新ができなくなったり、取り消しの対象になったりします。
- リスクは「失業」です。
経営・管理ビザのリスク:「事業の業績」
- 経営・管理ビザは「あなたの会社を経営すること」を前提に許可されています。
- ビザの更新時には、会社の「業績」が厳しく審査されます。
- もし事業がうまくいかず、大幅な赤字が続いたり、債務超過に陥ったりすると、「事業の安定性・継続性なし」と判断され、更新が不許可になるリスクがあります。
- また、社長としての役員報酬が低すぎたり、社会保険料や税金を滞納したりしても不許可の要因となります。
- リスクは「倒産・経営不振」です。
よくある誤解:「経営・管理ビザは万能」?
最後に、よくある誤解を解いておきます。
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誤解1:「経営・管理ビザなら、好きな仕事ができる」
- 間違いです。 経営・管理ビザで許される活動は、あくまで「経営」と「管理」です。
- 例えば、レストランの経営者が、経営業務(仕入れ、売上管理、従業員指導)を行うのはOKです。
- しかし、その経営者が現場の調理師やホールスタッフとして**「だけ」**働いている場合(=経営活動の実態がない)、「就労ビザ(技能など)でやるべき活動だ」と判断され、更新が認められない可能性があります。
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誤解2:「就労ビザでは副業で会社経営できない」
- 厳密には「資格外活動許可」が必要です。
- 本業(就労ビザの会社)に支障のない範囲で、副業として会社を設立・経営すること自体は可能です。
- ただし、その経営活動から「役員報酬」を得る場合は、「資格外活動許可」を入管から取得する必要があります。(報酬を得ない「無報酬の役員」であれば許可不要という解釈もありますが、運営実態には注意が必要です)
- 本気で経営にコミットする場合は、事業が軌道に乗った段階で「経営・管理」ビザへの変更を検討すべきです。
まとめ
「経営・管理」ビザと他の「就労ビザ」は、似て非なる、全く別次元の在留資格です。
- 就労ビザ(技人国など)
- = 従業員
- 必要なもの:専門スキル と 雇用契約
- 審査の壁:学歴・職歴と仕事内容のマッチング
- 経営・管理ビザ
- = 経営者・管理者
- 必要なもの:膨大な資金(3,000万円~)、経営経験、雇用(1名~)、実現可能な事業計画
- 審査の壁:事業の規模と実現可能性(2025年10月より超厳格化)
ご自身が日本で何をしたいのか。「スペシャリストとして組織に貢献したい」のか、それとも「リスクを取って事業を創造し、人を雇いたい」のか。
2025年の新制度により、その選択はより明確になりました。ご自身のキャリアプランに合った在留資格を正しく選択してください。


