経営管理ビザの最重要要件「事業所契約」で絶対に後悔しないための注意点
「日本で会社を設立し、経営管理ビザを取得してビジネスをスタートする!」
その熱い情熱とは裏腹に、多くの外国人起業家が直面する大きな壁が「事業所(オフィス)の確保」です。
経営管理ビザの申請において、事業所の確保は「事業の安定性・継続性」を証明するための最重要要件。しかし、日本の商習慣や不動産契約の複雑さから、ここで思わぬ落とし穴にはまり、ビザ申請が不許可になったり、多額の費用を失ったりするケースが後を絶ちません。
この記事では、行政書士として多くのビザ申請をサポートしてきた知見に基づき、経営管理ビザのための事業所契約で「絶対に失敗しない」ための重要ポイントを徹底的に解説します。契約書にサインする前に、必ずこの記事を読んでください。
1. なぜ「事業所」がこれほど厳しく審査されるのか?
まず、なぜ入管が事業所の要件を厳しく見るのかを理解しましょう。
彼らが見ているのは、「申請者が本気で、継続的に、安定した事業を行う意思と実態があるか」です。
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ペーパーカンパニーではない証明: 物理的な活動拠点があることは、実態のあるビジネスを行う最低条件です。
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事業の継続性: 短期解約が前提の場所ではなく、中長期的に事業を運営できる環境が求められます。
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独立性の確保: 他の法人や個人事業主と明確に区分された、独立した業務スペースが必要です。
バーチャルオフィスや、単なるコワーキングスペースのフリーアドレス席が認められないのは、この「継続性」と「独立性」の要件を満たせないからです。
2. 契約前に知るべき「5つの致命的な落とし穴」と回避策
ここが本題です。ビザ申請が不許可になる、あるいは後で大家さん(オーナー)と深刻なトラブルになるケースは、ほぼこの5つのどれかに該当します。
落とし穴①:使用目的の罠(「住居用」契約)
最も多い失敗例です。
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問題点: 外国人にとって、個人名義での「住居用(居住用)」物件の契約は比較的簡単です。しかし、その物件を「事務所」として使用し、法人登記することは、契約違反(用途違反)にあたります。
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なぜダメか?: 大家さんの許可なく事業用として使用した場合、発覚すれば即時契約解除を求められる可能性があります。入管も、契約書上の使用目的が「住居」であれば、「安定した事業所」とは認めず、不許可のリスクが極めて高くなります。
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回避策:
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契約前に必ず不動産会社と大家さんに対し、「事業用として使用すること」および「法人の本店所在地として登記すること」の2点について、明確な書面(承諾書や特約)での許可を取ってください。
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「SOHO可」「事務所利用相談可」という物件でも、法人登記は別問題です。必ず「登記」の可否まで確認しましょう。
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落とし穴②:契約名義の罠(「個人名義」のまま)
会社設立(法人登記)は、事業所(本店所在地)が決まらなければできません。しかし、不動産契約は、まだ存在しない「会社名義」では結べません。このジレンマが罠となります。
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問題点: 必然的に、最初は「代表者個人の名義」で契約することになります。しかし、入管に提出する申請では、設立した「法人」がその事業所を使用する実態を示さなければなりません。
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回避策:
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個人名義で契約する際、「会社設立後、速やかに契約名義を新設法人へ変更(または法人を連帯保証人として追加)すること」を大家さんに承諾してもらう必要があります。
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この承諾も、口約束ではなく「覚書」や「特約事項」として契約書に記載してもらいましょう。
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名義変更の際に「手数料」や「保証金の積み増し」を要求されるケースもあるため、その条件も事前に確認しておくのがベストです。
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落とし穴③:契約時期の罠(「ビザ不許可」リスク)
これが最も資金的に深刻な問題です。
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問題点: 経営管理ビザの申請には、「既に締結済みの賃貸借契約書」が必要です。つまり、ビザが許可される「前」に、オフィスを契約し、家賃の支払いをスタートしなければなりません。
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リスク: もしビザ申請が不許可になった場合、ビジネスは開始できず、収入もないまま、オフィスの家賃だけを払い続けることになります。解約するにも高額な違約金(短期解約違約金)が発生することがあります。
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回避策(上級テクニック):
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「停止条件付き契約」を結ぶ交渉を試みてください。
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これは、「本契約は、申請者の経営管理ビザが許可された時点(または在留カードが交付された時点)で発効するものとする」という特約です。
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大家さんにとってはリスクがあるため、交渉は非常に困難ですが、理解のある大家さんや、外国人起業家のサポートに慣れた不動産会社であれば応じてくれる可能性があります。これができれば、リスクを最小限に抑えられます。
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落とし穴④:保証人の罠(「誰が保証する?」)
日本の商用不動産契約では、ほぼ間違いなく「連帯保証人」が求められます。
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問題点: 日本に来たばかりの外国人が、日本国籍で安定収入のある連帯保証人を見つけることは非常に困難です。
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回避策:
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「保証会社(家賃保証会社)」の利用が必須となります。
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注意点は、「事業用の契約」に対応している保証会社が限られていることです。住居用専門の保証会社は使えません。
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さらに、大家さん側が指定する保証会社でなければならないケースも多いです。
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不動産会社に、「保証会社(事業用)の利用が必須である」ことを最初に伝え、利用可能な物件のみを紹介してもらいましょう。
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落とし穴⑤:物件タイプの罠(「独立性」の欠如)
コストを抑えようとして、入管の要件を満たさない物件を選んでしまうケースです。
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問題点:
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バーチャルオフィス/フリーアドレス: 論外です。物理的実体がありません。
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コワーキングスペース: 「フリー席」はNG。「専用の個室(パーテーションで区切られ、施錠できる)」であれば認められる可能性はありますが、厳しく審査されます。
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自宅兼事務所: 自宅の一部を事務所とする場合、「住居スペース」と「事業スペース」が明確に区分され、独立した出入り口がある、看板が出せるなど、非常に厳しい要件が課されます。安易な選択は不許可の元です。
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回避策:
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原則として、「独立した専用区画(個室)」を借りてください。
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ビルの入り口や郵便受けに、申請する法人の「社名(看板)」を掲示できることを確認してください。(これは入管が実地調査に来た際の重要なポイントです)
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3. サインする前に!賃貸契約「最終確認」チェックリスト
不動産会社から契約書(案)を受け取ったら、ハンコを押す前に、以下の10項目を指差し確認してください。
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□ 1. 契約名義: 代表者個人名義であるか?
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□ 2. 使用目的: 契約書の「使用目的」欄は「事務所(事業用)」となっているか?(「住居」はNG)
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□ 3. 法人登記: 「本店所在地として法人登記すること」を承諾する旨の記載(特約)があるか?
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□ 4. 名義変更: 会社設立後に「法人名義への変更」を承諾する旨の記載(特約)があるか?
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□ 5. 停止条件(※): (交渉した場合)「ビザ不許可の場合は契約を白紙撤回できる」旨の停止条件は正しく記載されているか?
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□ 6. 保証人: 保証会社の利用が認められており、その保証会社(事業用)の審査は通過しているか?
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□ 7. 契約期間: 契約期間は1年以上(通常2年)の中長期的契約か?(短期契約はNG)
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□ 8. 看板・表札: ビルのエントランスや郵便受けに「社名」を掲示することは許可されているか?
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□ 9. 内装・設備: 事業に必要なインターネット回線、電話回線、OA機器の設置に制限はないか?
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□ 10. 解約予告: 万が一の際の「解約予告期間」(通常3ヶ月~6ヶ月前)と「短期解約違約金」の有無・金額は把握したか?
4. 結論:事業所契約は「専門家」とタッグを組む
ここまで読んで、いかに経営管理ビザの事業所契約が複雑で、専門的な知識を要するかお分かりいただけたかと思います。
これらの交渉や確認を、不慣れな日本語で、日本の商習慣を理解しないまま一人で行うのは、無謀に近い挑戦です。
事業所契約は、経営管理ビザ申請の「土台」です。この土台がぐらついていると、どんなに素晴らしい事業計画書を作成しても、ビザは許可されません。
「餅は餅屋」です。
ビザ申請のことは「行政書士」に、そして事業所探しのことは「外国人起業家の事業用物件に精通した不動産会社」に依頼してください。
初期費用はかかりますが、契約に失敗してビザが不許可になり、無駄な家賃と時間を失うコストに比べれば、専門家への依頼費用は「未来への確実な投資」と言えるでしょう。あなたの日本での成功を、心から応援しています。


