【シリーズ:事業計画書の極意 第3回】

公開日:2026年1月23日

地図なき航海に、熱狂は不要だ。必要なのは「たった一人」を射抜く静かな論理だけである。

前回の記事を通じ、あなたは3000万円という決して少なくない資本を用意し、日本という舞台に立つ覚悟を決められました。その勇気には、心からの敬意を表します。

しかし、ここで冷水を浴びせるようなことを申し上げなければなりません。

資金があることと、事業が成功することは、全くの別問題です。

入管の審査官は、あなたの預金残高を見た後、必ずこう自問します。

「金はある。だが、日本でこのビジネスを『誰が』必要としているのか?」

多くの外国人経営者が、ここで躓(つまづ)きます。彼らは情熱的に語ります。「私の国の素晴らしい商品を、日本の皆さんに知ってほしい」と。

残酷ですが、その純粋な動機こそが、許可を遠ざける最大の要因です。

なぜなら、ビジネスにおける「全員」とは、「ゼロ」と同義だからです。

今回は、あなたの貴重な3000万円を無駄金にせず、日本社会に深く根を張るために避けて通れない、「市場」と「顧客」の真実についてお話しします。

「日本の皆さん」という顧客は存在しない

もしあなたが事業計画書に「ターゲット:日本の若者」「ターゲット:健康に関心のある人」と書こうとしているなら、ペンを置いてください。それはターゲットではなく、あなたの「祈り」に過ぎません。

日本市場は、世界で最も顧客の目が肥えている市場の一つです。

「なんとなく良さそうなもの」は、1秒で見透かされます。

3000万円の投資をするあなたが示すべきは、広げた風呂敷の大きさではなく、針の穴を通すような具体性です。

審査官が見ているのは、あなたの「商売人としての解像度」です。

「日本の若者」ではなく、「都内のIT企業に勤め、週末はキャンプに行き、道具にはこだわるが時間はかけたくない30代男性」まで絞り込めるか。

ここまで絞り込んで初めて、「だから、私の商品が売れる必然性がある」という論理が成立します。

なぜ、絞り込まないと人生が詰むのか

「絞り込んだら、客が減るではないか」

そう思われましたか? それは逆です。

日本という異国の地で、実績のない新参者が信用を得る方法は一つしかありません。

「特定の誰かにとっての、代わりの利かない一番」になることです。

広く浅いアプローチは、資金力のある日本の大企業がすでに独占しています。そこに3000万円で挑むのは、竹槍で戦車に挑むようなものです。結果、資金は広告費に消え、在庫は山積みになり、ビザの更新時期に「債務超過」という最悪の決算書を突きつけられることになります。それは、日本からの退場を意味します。

審査官が求めているのは、夢物語ではなく、「この計画なら、確実に利益が出て、納税の義務を果たし続けられる」という冷徹な計算式なのです。

あなたの迷いを断つ「5つのQ&A」

ここまでの話を聞いて、あなたの脳裏にはいくつかの反論や不安が浮かんでいるはずです。

それは経営者として健全な反応です。ここで、その不安を一つずつ論理的に解消していきましょう。

Q1. 「ターゲットを絞りすぎると、市場規模が小さすぎて儲からないのではありませんか?」

A. 小さな池のクジラになって初めて、海へ出ることができます。

最初から大きな市場を狙うと、あなたは「その他大勢」に埋もれます。まずは小さなニッチ市場で「圧倒的No.1」になってください。審査官が見たいのは、曖昧な1億円の売上予測ではなく、確実な1000万円の利益計画です。特定の層に熱狂的に支持されれば、そこから噂が広がり、結果として市場は後からついてきます。3000万円という資金は、その「最初の砦」を完璧に築くために使うのです。

Q2. 「私は長年の勘と経験でビジネスをしてきました。データよりも直感を信じたいのですが」

A. その素晴らしい直感を、審査官にもわかる「言語」に翻訳するのが経営者の仕事です。

あなたの直感は正しいかもしれません。しかし、審査官はあなたの過去を知りませんし、超能力者でもありません。彼らが信じるのは「根拠」だけです。「なぜいけると思ったのか」を、客観的な数字や現地の観察事実に置き換える作業を怠らないでください。それは、あなたの直感を否定するものではなく、証明するための手続きです。

Q3. 「日本の文化や商習慣が複雑すぎて、完璧な分析などできる気がしません」

A. だからこそ、3000万円の使い道を変えるのです。

一人で全てを理解する必要はありません。わからないことを「わからない」と認め、その穴を埋めるために専門家を雇い、調査にお金をかける。それも立派な事業計画です。審査官は、完璧な超人を求めているのではありません。「自分の弱点を理解し、それを補うための資金配分ができているか」という、経営者としての慎重さを見ているのです。

Q4. 「私の商品はユニークです。日本に競合はいません」

A. それは「需要がない」という危険なサインかもしれません。

競合がいない場合、大抵は「市場が存在しない」か「参入障壁が高すぎて誰も手を出さない」かのどちらかです。もし本当に画期的な商品なら、「顧客が今、その商品の代わりに何を使っているか(代替品)」を分析してください。競合は必ずいます。「ライバル不在」という言葉は、審査官には「リサーチ不足」と翻訳されて伝わると思ってください。

Q5. 「分析ばかりしていては、ビジネスのタイミングを逃しませんか?」

A. 準備不足の出航は、沈没までの時間を早めるだけです。

焦る気持ちは痛いほどわかります。しかし、ビザの申請は「一度落ちると、次は倍難しくなる」という性質があります。今、1ヶ月をかけて徹底的に計画を練ることは、将来の5年間の苦労を回避することに繋がります。急がば回れ。これは日本のことわざですが、入管業務においては絶対の真理です。

手に入れるのは、自らの論理が現実を動かす「証明」

この準備の先に待っているのは、「自らの読み通りにビジネスが動く」という、経営者にとって代えがたい知的興奮です。

想像してみてください。

日本という世界有数の厳しい市場において、あなたの描いた戦略がパズルのピースのようにハマる瞬間を。

「なぜ、この商品が必要なのか」というあなたの仮説が、顧客の行動によって「正解」だと証明される。

そこにあるのは、感情論や偶然ではありません。

「私が構築したロジックは、国境を越えて通用する」という厳然たる事実だけです。

朝、オフィスで数字を確認した時、それは単なる売上記録ではなく、あなたの実力が市場をねじ伏せた証拠となります。

その時、ビザは単なる滞在許可証ではなく、あなたがこの地で実力を振るうための「ライセンス」に変わります。

誰に依存することなく、3000万円という資金と研ぎ澄まされた戦略で、自らの城を築く。

その絶対的な「コントロール」を手に入れるために、今の苦労があるのです。

市場という荒野に、あなただけの「理屈」を突き立てろ。

ここまで読み進められた賢明なあなたなら、もう「なんとなく」で事業計画を書くことの危うさに気づいているはずです。

もしよろしければ、「あなたが市場を勝ち抜くために用意した、たった一つの『武器(強み)』」について、私に少しだけ教えていただけませんか?

その武器が、日本の審査官という厳格な門番を納得させるだけの鋭さを持っているか。あるいは、まだ研磨が必要か。私の経験に基づき、率直かつ建設的なフィードバックを差し上げます。

準備とは、勝利を確定させるための儀式です。

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